サウジアラビアで日本アニメの人気が急激に高まっています。政府の経済改革構想「ビジョン2030」によるエンターテインメント産業振興を背景に、アニメ関連イベントの開催が急増し、若年層を中心に大きな支持を集めています。

このアニメブームは、IPホルダーはもちろん、グッズ制作、イベント企画、音楽配信、ライセンシングなど関連業界全体に波及し、多くの日本企業が新たなビジネスチャンスとして注目しています。

本記事では、サウジアラビアにおけるアニメ人気の背景から最新トレンド、現地でのアニメビジネス展開における注意点まで、市場進出を検討する企業が押さえておくべき情報を解説します。


サウジアラビアにおけるアニメ人気の背景

なぜサウジアラビアで日本のアニメがこれほどまでに支持されているのでしょうか。ここでは、2つの要因を解説します。

国策としてのエンターテインメント産業推進

サウジアラビアは、2016年に発表した経済改革構想「ビジョン2030」で、石油依存からの脱却を目指す産業構造の多角化を掲げています。その柱の一つがエンターテインメント産業の育成です。日本のアニメやキャラクターコンテンツも重要な投資対象と見なされており、IPホルダーやグッズメーカーなど多くの日本企業が現地市場への関心を高めています。

こうした国策レベルでの推進が、サウジアラビアにおけるアニメ市場の急成長を支える重要な要素となっています。

参考:サウジアラビア 「ビジョン2030」|JETRO

デジタルネイティブの若年層が人気をけん引

サウジアラビアは、10~30歳の若年層が全人口の約33%を占める非常に若い国です。さらに、インターネット普及率は100%、スマートフォンの普及率も89%と、デジタル環境が極めて整備されています。

この世代は、幼少期からYouTubeやNetflixなどを通じて日本のアニメに親しんできており、日本アニメが日常的な娯楽として深く根付いています。近年では、SNSを通じて作品の魅力を発信・共有する動きも活発化しており、こうした世代がアニメ人気を強くけん引しています。


サウジアラビアにおける日本アニメの最新動向

サウジアラビアでは、日本アニメに関連するイベントや作品の盛り上がりが年々増しています。ここでは、アニメ文化が急速に浸透している現状を紹介します。

大型イベントで日本アニメが主役級の存在感

近年、サウジアラビアの大型エンターテインメントイベントでは、日本のアニメが主役級のコンテンツとして存在感を高めています。アニメ関連の展示やステージに、日本を代表する企業が多数出展し、高い注目を集めています。

特に、2023年にジッダで開催された日本アニメをテーマにした「アニメビレッジ」は、予想以上の人気を集めました。「サンリオ」「進撃の巨人」「NARUTO -ナルト-」「名探偵コナン」など人気作品のブースが設けられ、VRゲームやアトラクションも体験できる本格的な施設として話題となりました。物販では、日本よりも高価格にもかかわらず完売が続出するほどの需要の高さを見せており、日本アニメの強い人気を裏付ける結果となりました。

海外でも人気の日本のキャラクターやグッズについては、「海外でも人気の日本のキャラクターは? グッズ製作ビジネスに役立つ情報を紹介」「外国人が好きな日本のものは? 日本製品の魅力やグッズ製作の注意点を解説」でくわしく解説しています。

「ドラゴンボール」テーマパーク計画が話題に

2024年、世界初となる「ドラゴンボール」の常設テーマパーク建設計画が発表され、国内外で注目を集めました。これは、ジッダでの日本アニメイベントの盛況を受けて構想されたもので、日本アニメが現地のエンタメ戦略に組み込まれている象徴的な事例といえます。

参考: [世界初となる『ドラゴンボール』テーマパーク建設へ!]| 【公式】ドラゴンボールオフィシャルサイト

「One Piece Film: Red」「進撃の巨人」など王道アニメの人気

「One Piece Film: Red」はサウジアラビアで約6万人を動員し、興行収入100万ドル以上を記録して話題となりました。また「進撃の巨人」「NARUTO-ナルト-」は、ストリーミングプラットフォームで人気を博しており、多くの人に視聴されています。日本のアニメ作品がアラビア語字幕・吹替版が提供されることも増え、現地視聴者のアクセシビリティが向上しています。

現地制作・日サウジ共同制作アニメの台頭

サウジアラビアでは、現地発のオリジナルアニメも注目を集めています。現地スタジオが制作した「Masameer」シリーズは、YouTube再生5億回を超え、2020年に映画化され世界中に配信されました。

一方、日本との共同制作も順調に発展しています。「アサティール未来の昔ばなし」は、現地プロダクションと東映アニメーションで共同製作された作品です。サウジアラビアの未来の都市を舞台に、伝統的な民話を子どもたちに伝えていくストーリーで、世界中で1億人近くが鑑賞しています。


サウジアラビアでのアニメ関連ビジネスにおける注意点

日本アニメの人気が高まる中で、サウジアラビアをはじめとする中東市場には、多くのビジネスチャンスが存在しています。一方で、文化・規制面における独自の注意点も多く、あらかじめ理解しておく必要があります。

宗教・倫理規制への十分な配慮

サウジアラビアでは、宗教や社会的価値観に基づいた厳格な表現規制があり、特定のテーマや描写が放送・配信の制限対象となります。例えば、「ポケットモンスター」は「進化」や「魔法」と見なされる要素が問題視され、地域によっては放送が中止または禁止された過去があります。進出前には、現地のガイドラインや検閲基準を確認し、企画・制作段階から文化的配慮を組み込むことが欠かせません。

キャラクター名や作品設定のローカライズ

中東で成功している日本アニメ作品の多くは、現地文化に合わせた名称や設定変更を行っています。

代表例が「キャプテン翼」で、アラビア語圏では「キャプテン・マジード」というタイトルで広く知られ、キャラクター名や一部のシーンがアラブの風土に適応された形で展開されました。

こうしたローカライズ戦略は、単なる翻訳にとどまらず、文化へのリスペクトと定着を促す有効な手段となっています。現地パートナーとの連携を通じて、文化的な信頼関係を築く姿勢が求められます。

IP(知的財産)の慎重な管理

サウジアラビア政府は近年、著作権や商標保護の強化に取り組んでいますが、依然として海賊版や模倣品のリスクが残っています。そのため、進出前には商標登録や著作権管理の徹底を行い、現地のパートナー企業との契約内容も慎重に設計する必要があります。

IPビジネスについては、「IPビジネスにアニメ業界が注目!基本から成功へのポイントまでを解説」でくわしく解説しています。


emoji_objects サウジアラビアのアニメ市場に今後も注目

サウジアラビアにおける日本アニメの人気は、政府の「ビジョン 2030」を背景とした国策レベルの推進により、単なるブームを超えて持続的な成長が期待される市場となっています。

若年層を中心とした根強い人気と、グッズ販売からイベント企画まで幅広い関連業界への波及効果により、多くの日本企業にとってビジネスチャンスのすそ野が広がっています。一方で、宗教的配慮やローカライズなど中東特有の注意点もあるため、市場動向と文化的背景の両面を理解したうえで、慎重に進めていくことが必要です。発展が始まったばかりのこの新興市場に、今後も注目しましょう。

バッジマンネットでは、アニメ関連ビジネスや海外展開に役立つさまざまな情報をご紹介しています。ぜひ参考にしてください。