数学者で265万部のベストセラー「国家の品格」の著者として知られる藤原正彦さんは、読書を通じて知識や教養を得ることは、最終的に国を守るための国防に繋がると述べました。
日本では、どんどん街の本屋が無くなってしまっていますが、10人に一人が本を出版するアイスランドでは、デジタル時代に本屋を存続させるための様々な工夫がされています。
アイスランドの本屋は、そもそも「本を売る」ことを目的にしていない本屋も多く、カフェと融合して居心地の良い場所を提供したり、音楽の演奏を楽しんだり、バーでゆっくりお酒を飲むための場所としても、本屋が存在しています。
また、アイスランドの本屋は、旅行であればこの本屋、料理であればこの本屋といったように、ある特定の分野の本に特化した本屋も多く、店員と対話しながら本を選んでいくことで、より知識が深まっていくのでしょう。
日本でも、大型書店がどんどん姿を消していく中で、新しい形の本屋が少しずつ生まれてきています。
2023年に沼津でスタートした「RIVER BOOKS」は、クラフトビールを片手に本好きの店主と話しながら本を選んでいくという形の新しい本屋です。
店主の江本典隆さんは、厳選した本を出版社から掛け率の高い直接取引(買切り)で仕入れており、返品ができない緊張感の中で、いつも本を選んで、本を読む習慣がない人でも本が読みたくなってしまうような本を選んでいるのだと言います。
RIVER BOOKSでは、デザイン性の高い缶バッジも販売しており、本屋というよりも本好きが集まる場所を提供しているというイメージなのかもしれません。
アイスランドの本屋でも、観光客用のお土産を売ったり、本以外の日用品を売るなどして、本好きだけではなく様々な人たちが本屋を訪れるキッカケができるようにと、色々な工夫がされています。
低コストかつ存在感がある缶バッジは、少しずつ明かりが灯りはじめた文化をじんわりと広げていくツールとしては非常に適していると言えるのでしょう。
アルゴリズムではなく、「人間のリズム」で選ばれることで、読書の価値が上がっていく
多くの人が、暇ができたら読書をしようと考えてしまいがちですが、少し視点を変えて、読書をスポーツのような身体的な行為として取り組む方が良いのかもしれません。
人間の身体は何もしなければ、毎年1〜2%劣化していくと言われるように、学生を終えて、勉強をしなくなってしまえば、知識量も毎年1〜2%ほど劣化していってしまいます。
常に知識をアップデートし、一定の教養力を維持し続けなければ、本当の意味での大局観を得ることができません。流行を追いかけ、どれだけ効率的に知識を集めても、知識が血肉となった大局観がなければ、危機に直面した時に、長期的な目線に立って対処することができないのでしょう。
どれだけ情報や書籍が世の中に溢れていても、それをしっかりと吸収して、血肉にしていかなければ意味がありません。
メッシが試合で使用したリストバンドと普通のリストバンドでは、価値や意味合いが全然違います。
これと同じように地元の書店の店主が勧めてくれた本とアマゾンでただクリックして、スマホやタブレットにダウンロードされる本とでは、そこに生まれる意味合いが全然違うのです。
本はただの印刷物ですが、それをどう受け取るかによって、様々な意味が本と一緒にくっついてくるのです。
イギリスの本屋では、お客が店に来て本を選ぶのではなく、本のことを知りつくした店員がお客のために本を選び、毎月、顧客のもとへ送るサブスクリプションを提供している書店もあります。
アルゴリズムではなく、「人間のリズム」で選ばれる本は、本に新しい付加価値を付け加えてくれます。
パリのシテ島の近くにある書店「シェイクスピア・アンド・カンパニー」の店員は、まだ書くことで生計が立てられていない駆け出しの作家で、ここでは世界中の本好きが語り合えるコミュニティーが形成されています。
人間というのは、深い意味や教養を持ったもの同士でなければ、なかなか繋がり合うことができず、どれだけネットの断片的な情報を毎日スクロールしていても、そこに意味や繋がりを生み出すことはできないのでしょう。
今から50年前の1974年にフランスのある街で、テレビ塔が過激派によって爆破され、その後1年間にわたって、その地方ではテレビが見れなくなってしまったという事件がありました。
すると、この地方では、多くの人が本を読むようになり、本屋の収入が増えたのだと言います。さらには、街の人たちのコミュニケーションも活発になり、人々の繋がりも親密になったのです。
本のない部屋は、魂のない肉体のようなものだと言われますが、限られた人間の経験を、想像力で唯一超えられるのが読書なのだとも言えます。
恐らく、これからもただ単に本を売るだけの本屋はどんどん無くなっていくことでしょう。
これに対して、「RIVER BOOKS」のような本に様々な意味付けをして、新しい価値を与える新しい形の本屋が少しずつ日本でも誕生し始めています。
読書は国防とも言われる通り、知識や教養の衰退が現代の日本の衰退に直結していることは間違いないでしょう。
そういった意味では、新しい形の本屋を広めることに一役買っている缶バッジも、日本の国防に繋がっているのかもしれません。