
かつては主に芸能人やスポーツチームだけのものと思われていたファンの力が、今、あらゆる業界で注目を集めています。顧客を熱心なファンへと変え、持続的な関係を築くファンマーケティングは、多くの企業が成長戦略の手法として取り入れ始めています。本記事では、ファンマーケティングの基礎からメリット・デメリット、実践におけるポイントと事例までわかりやすく解説します。
ファンマーケティングとは
ファンマーケティングとは、提供する価値への共感を通じて、顧客との感情的なつながりを築き、熱心な支持者へと育成していくマーケティング戦略のことです。特徴的なのは、機能や価格といった実利的な価値にとどまらず、ブランドの世界観や理念、体験全体を通じて深い信頼関係を構築し、自発的な関与を促すエンゲージメントを醸成する点にあります。
商品やサービスだけでなく、エンターテインメント業界やスポーツチーム、動物園・水族館・博物館といった施設、社会活動団体など、幅広い分野において注目されています。
アニメ・漫画業界のファンマーケティングについては、以下の記事でくわしく解説しています。
>> 【アニメ・漫画】ファンエンゲージメントとは?向上させる方法やポイントも <<
ファンマーケティングが注目される背景
- 消費者の価値観の変化
従来の商品の所有を重視する「モノ消費」から、体験や感動を重視する「コト消費」へと、消費者の価値観は大きく変化しています。ブランドや組織が掲げる理念や世界観との共鳴を求める意識が高まっています。単なる利用者という立場を超えて、価値観を共有できるコミュニティの一員として、帰属意識を重視する傾向が強まっています。
このような消費行動の変化は、以下の記事でくわしく解説しています。
>> モノ消費からコト消費へ変化する消費行動に企業はどう対応すべきか <<
- 市場環境の変化
商品の品質や機能、サービスの内容など、目に見える要素での差別化はあらゆる分野で難しくなっています。商品やサービス、コンテンツそのものの価値に加えて、ファンとの継続的な関係性を構築することの重要性が、多くの企業や組織で認識されるようになりました。
ファンマーケティングのメリット・デメリット
ファンマーケティングを実践することのメリット・デメリットは次の通りです。
ファンマーケティングのメリット
- 長期的な収益基盤の形成
熱心なファンは、継続的なサポートを通じて、組織の安定的な収益基盤となります。例えば、新商品の発売時には真っ先に購入し、サービスの新規展開時にも積極的に利用するなど、持続的に収益を支える存在となるでしょう。 - 口コミ効果による認知拡大
ファンは自らの意志で、商品やサービス、活動の魅力を周囲に伝えてくれます。口コミによる情報は、企業による広告よりも信頼性が高いと評価される傾向にあり、ファン同士のつながりを深めるとともに、新規顧客の獲得にもつながりやすくなります。
- 率直なフィードバックの収集
多くの熱心なファンは、率直な意見や感想などフィードバックを積極的に共有します。このフィードバックは一般消費者の潜在的なニーズを反映する可能性もあるため、製品開発やサービス改善の貴重な情報源となるでしょう。ファンの率直な声に耳を傾けることで、より魅力的な価値提供につなげることができます。
ファンマーケティングのデメリット
- 継続的な取り組みが必要
ファンを育成するには、長期的な視点での取り組みが欠かせません。コミュニティの運営やコミュニケーションの維持には、継続的な人的リソースと予算の確保が必要となります。短期的な売上や利益を重視する組織では、その価値を理解してもらいにくい場合があります。 - 一般顧客への訴求の軽視
熱心なファンの声に注力するあまり、新規顧客の獲得や幅広い層への価値訴求がおろそかになるリスクがあります。ファンの期待に応えつつ、一般層にも魅力的な価値を提供し続けることも必要です。
ファンマーケティングの手法
すべての人がいきなり熱心なファンになるわけではありません。適度な頻度で接点を持ち、段階的に信頼関係を築いていきます。具体的には、以下のような段階的な取り組みが効果的です。
認知・関心層への取り組み
まずは製品やサービスの価値を体感できる機会を提供します。SNSやWebでの魅力的なコンテンツ発信、および商品デモンストレーションのライブ配信、体験版や無料サンプルの提供などを通じて、ブランドへの理解と共感を促します。また、来場特典付きイベントの開催やノベルティの配布により、実際に体験できる機会を提供します。
来場特典やノベルティについては、以下の記事でくわしく解説しています。
>> 来場特典とは? 基本知識からアイテム選びや関連情報を解説 <<
>> 企業の販売活動を促進する面白いノベルティの事例を紹介 <<
ファン層への取り組み
認知・関心層との接点を重ねながら、より深い関係性を構築していきます。例えば、限定コンテンツや商品の提供、特別イベントへの招待などは、ファンならではの特別な体験となるでしょう。コレクション性の高いグッズは、ファンの帰属意識を高める重要なアイテムとして機能します。
さらに、ファン同士の交流の場の提供や、商品開発プロセスへの参加機会の創出、アンバサダープログラムの実施なども、ブランドとの結びつきを強める施策です。
ファンマーケティング実践における5つのポイント
ファン像の明確化
まず誰をファンにしたいのかを明確にすることが、ファンマーケティングの第一歩となります。商品やサービス、活動などの本質的な価値に共感してくれる可能性が高い層を見極め、その特徴を具体的に描き出します。単なる利用頻度や購買金額だけでなく、その層の興味・関心や日常的な行動、情報収集方法などを把握することが重要です。
提供価値の一貫性の維持
ファンの信頼を獲得し維持するには、提供する価値の一貫性が欠かせません。一時的な流行や他社の動向に振り回されることなく、自社ならではの特徴や強みをさまざまな接点で一貫して表現し続けることが重要です。
ファンコミュニティの健全性への配慮
ファンコミュニティを健全に保つには、適切なバランス感覚が求められます。誹謗中傷や不適切な発言には迅速に対応しつつ、過度な介入は避け、自然な交流を促進します。さまざまな意見や関わり方を受け入れる寛容な雰囲気づくりを心がけることは、コミュニティの持続的な発展には欠かせません。
潜在的なファン層の開拓
ブランドの世界観や価値観に共感する可能性のある潜在的なファンを継続的に開拓することが重要です。まずは本質的な価値をわかりやすく伝え、関心を持った層に対して段階的により深い体験機会を提供していきます。例えば、SNSでの情報発信や無料コンテンツの提供から始めて、共感度に応じて特別なサービスや限定イベントへと導いていく施策が効果的です。
組織的な運営体制の整備
ファンマーケティングの継続的な取り組みには、社内の運営体制を整備し、改善の仕組みを構築することが不可欠です。責任者と役割分担を明確にし、必要なリソースを適切に配分します。また、目的に応じた適切な指標を設定し、定期的な効果測定と改善のサイクルを確立することも必要です。
ファンマーケティングの成功事例
ファンマーケティングに成功した事例を紹介します。
チロルチョコ株式会社(チョコレート販売)
チロルチョコ株式会社は、人気VTuber10組とのコラボレーションイベント「プチロルズフェス2024」を開催し、話題作りを行いました。SNSでの参加型キャンペーンを組み合わせることで、ファンの積極的な参加を促すとともに、新たなファン層の開拓にも取り組んでいます。
参考 : プチロルズフェス2024 お月見時々ハプニング《チロルチョコ株式会社》
バイオパーク株式会社(長崎バイオパーク運営)
長崎バイオパークは、SNSの特性を戦略的に活用したファンマーケティングを展開しています。TikTokでは海外ユーザーを中心に150万人のフォロワーを獲得し、インバウンド誘致につなげています。一方、YouTubeでは日本人向けのコンテンツに注力することで、国内のファン層の拡大を実現しています。
参考 : 長崎バイオパーク – ZOOっと近くにふれあえる九州の動物園&植物園
emoji_objects ファンマーケティングは企業の成長戦略に必要な取り組み
ファンマーケティングは、単なる一時的な売上増加を超えて、持続的な成長を実現する重要な戦略です。重要なのは、提供する価値の一貫性を保ちながら、ファンとの継続的なコミュニケーションを図り、コミュニティの健全な発展を支援していくことです。これは一朝一夕には実現できませんが、組織的な取り組みと改善の積み重ねにより、着実な成果につながっていくでしょう。
ファンマーケティングにおいて、グッズは重要な要素の一つです。なかでも缶バッジは、手軽さと愛着度の高さから、ファンの共感を形にする定番アイテムとして注目されています。「バッジマンネット」でマシンやパーツをそろえれば、自社で魅力的な缶バッジの製造も可能です。