円安や海外の物価高、原油価格高騰などにより、製造業で欠かせないさまざまな原材料や電気代などの値上げが続いています。
製造コストが高騰しているのであれば価格へ適正に転嫁させる必要があります。しかし、発注者である大企業に比べ立場の弱い下請け企業や中小企業では価格転嫁も容易ではありません。
本記事では、価格転嫁の概要や、適切に価格転嫁を実現させるための価格交渉のポイント、価格転嫁ができない場合の対処方法をお伝えします。また、缶バッジ製作における価格転嫁についても解説しますので参考にしてください。
価格転嫁とは
価格転嫁とは、企業が商品の製造や販売する際にかかるコストの増加分を、商品もしくはサービスの価格に反映させることを指します。一般的に企業にかかるコストは、「原材料費」「エネルギー価格」「労務費(人件費含む)」です。
価格転嫁の現状について
2024年3月に帝国データバンクが発表した、「価格転嫁に関する実態調査(2024年2月)」では、自社の商品・サービスに対しコスト上昇分を「多少なりとも価格転嫁できている」と回答したのは全体の75.0%です。ただ、「全く価格転嫁できない」と回答した企業も12.7%ありました。
実際、コストが100円上昇した際に販売価格にいくら転嫁できているかを示す価格転嫁率は40.6%(40.6円)で、約6割(59.4円)は企業の負担です。この結果から見てもまだまだ十分には価格転嫁が進んでいないことがわかります。
中小企業の価格転嫁が進まない理由
2024年の春闘では、大企業を中心に昨年を上回る水準での賃上げが実現しています。しかし、中小企業においては、大企業に比べ価格転嫁がうまく進まず賃上げも十分にできていません。その理由の1つが大企業による買いたたきです。
買いたたきとは、下請け業者がコスト上昇分を取引価格の引き上げを求めたにも関わらず、理由を説明することなく取引価格を据え置くような行為のことです。
そこで2023年11月に公正取引委員会は、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定しました。これにより下請法の運用基準が改正され「買いたたき」に該当する行為を明確化し、価格交渉や転嫁に消極的な企業名を公表するとしています。
価格転嫁や価格交渉を適切に進めるポイント
大企業に比べ価格転嫁が難しい中小企業において、適正な価格転嫁を実現し発注先である大企業と価格交渉をうまく進めるポイントは次のとおりです。
価格交渉では原価やデータを示す
前述したように下請法の運用基準改正により、価格交渉なく取引価格を据え置くことは難しくなっています。ただ、下請け業者としても正当な理由がなく価格交渉をしても受け入れてはもらえません。そこで重要となるのが「原価を示した価格交渉」です。
2023年6月に中小企業庁が公開した、「価格交渉ハンドブック〜価格転嫁の実現に向けた交渉準備(初級編)」では、価格転嫁ができた企業のなかで原価を示した価格交渉がもっとも有効であったというアンケート結果が出ています。
価格交渉の準備として、原価データをしっかりと把握し、適正な原価計算が必要だといえるでしょう。
価格交渉できる関係性を構築する
普段、取引以外に関係性が少ない下請け業者よりも、関係性が構築されている下請け業者のほうが価格交渉にも応じてもらえる可能性が高まります。
具体的には短納期にも可能な限り応じる、頻繁に連絡を取り状況を共有するなど、互いに助け合える関係性の構築が重要です。
適切なタイミングで価格交渉を申し入れる
価格交渉をうまく進めるには、適切なタイミングを見極めることも重要です。競合他社の値上げの動きや取引先の価格改定などの動向を注視し、最適な時期を選んで交渉を開始しましょう。
また、タイミングが合っていたとしても、突然価格交渉を始めてしまってはスムーズに話が進まない可能性があります。値上げの可能性について、3カ月から半年前には情報共有しておくことをおすすめします。
価格転嫁サポート窓口に相談する
経済産業省では、下請中小企業の価格交渉や価格転嫁の後押しを目的として、全国47都道府県にあるよろず支援拠点に相談窓口を設置しています。価格交渉に関する基礎的な知識や原価計算の習得支援しているため、適正な価格交渉実現に向け相談してみるのもおすすめです。
価格転嫁ができない場合の対応方法
価格交渉してもうまく価格転嫁ができないケースは少なくありません。ここでは、うまく価格転嫁できない場合の対応方法を解説します。
付加価値を提示する
現状よりも小ロットでの納品や短い期間での納品を検討するなど、発注先にとって価値を感じられる条件を提示します。ただし、非現実的な提案となれば、価格転嫁できたとしても現場の負担が増大するリスクにつながるため、内容については十分な検討が必要です。
新製品や代替品を提案する
価格転嫁が難しい製品を廃番にして、新商品を製造して適正な価格での価格交渉や、現状よりもスペックダウンした代替品での取引交渉も効果的です。
商品仕様を調整する
上述したような価格交渉でもうまくいかない場合は原価を下げる、生産効率を高めてコストカットするなど、製造段階での対応策を検討します。
缶バッジ製作における価格転嫁
一般的に製造業は、卸売業と比較して価格転嫁がうまく進んでいません。缶バッジ製作も同様で、コスト高騰に対し十分な価格転嫁ができていないのが現状です。ここでは、缶バッジ製作における価格転嫁のポイントを解説します。
価格転嫁につながる付加価値を検討する
缶バッジは基本的に製造場所によって品質が大きく変わることが少ないため、選択してもらうための低価格競争に陥りがちです。そのため、他社と差別化するには、側面のクレジットもきれいに見える巻き込みや、再現性の高いプリント技術による美しいデザインなど、より高い品質であることをアピールすることが求められます。
また、クリーンルームでの缶バッジ生産や、錆の発生を極力抑えこんだ防錆紙の活用による梱包の提案など、品質管理のアピールも安心材料につながります。商品品質と品質管理の両方を向上させることで価格転嫁の交渉もしやすくなるでしょう。
オリジナリティを高める
缶バッジにおいて欠かせないもう1つの付加価値として挙げられるのがオリジナリティです。具体的には他では手に入らないデザインや、キャラクター、特定の場所でしか購入できないものなどが考えられます。企業とのコラボによるオリジナルキャラクター、自治体とのコラボによる観光PR製品の開発などにより、オリジナリティを高めれば価格転嫁も可能でしょう。
原価や製造工程の見直しを検討する
製造コスト削減も欠かせません。製造ロスを極限まで下げる、製造工程の見直しにより効率化を進めるなどの検討が必要です。
製造ロスの削減について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
また、製造段階でのミスを軽減する方法について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
「製造業におけるヒューマンエラーとは? 缶バッジ製作現場での事例や対策も解説」
缶バッジ製造のコストダウン実現にはバッジマンネットの自動缶バッジマシンがおすすめ
大企業に比べ価格転嫁がうまく進んでいない中小企業においては、原価の把握や適切なタイミングを計った交渉が重要です。下請法の運用基準改正により交渉の場にはつきやすくなったものの、何の準備もなければ取引価格の引き上げは難しいため、しっかりと準備をしたうえで交渉に臨みましょう。
また、さまざまな業種のなかでも製造業の価格転嫁はより困難な状況です。缶バッジ製造においては、もともと低コストで製造できるため、コストカットは簡単ではありません。そこで、ポイントとなるのは製造工程の見直しです。
できるだけアナログな工程を減らし、均一の品質を実現させることが重要で、おすすめなのはバッジマンネットの自動缶バッジマシンです。
手動プレスに比べ常に一定の力でプレスでき、完成品の品質が均一で安定しています。スピード調整もできるため、慣れれば量産体制にも対応可能です。