初期費用の安さから圧倒的な参入障壁の低さを誇る缶バッジ業界。そうした理由もあって近年では異業種参入が盛んに行われており、今や缶バッジ業界は戦国時代に突入したと言っても過言ではありません。
盛り上がりを見せる缶バッジ業界において、弊社のお客様である 株式会社ナラトデザイン では高い競争率を有しています。
福岡県博多市に拠点を置く同社は缶バッジ、アクリルグッズ、Tシャツの3本柱で事業を展開するノベルティグッズ制作会社なのですが、なんと年間の缶バッジ製造キャパシティは約700万個にものぼり、60人程度のスタッフで工場を運営しているというから驚きです。
それを可能にするのが、「パン工場」と「プロ野球界」の制度を缶バッジ工場の運営に応用するという独自の経営手法。そんなナラトデザイン社の経営を一手に担っているのが同社専務取締役の是本旭さんです。
そこで今回は、缶バッジ戦国時代における缶バッジ工場の経営について、是本さんに詳しくお話を伺ってきました。
パン工場スタイルの缶バッジ工場。異業種の考え方を積極的に工場に取り入れる。
取材を開始するやいなや是本さんは開口一番に次のように話しました。
「この業界に足りないのは『異業種の製造システム』を応用することなんですよ。例えば、皆さんもご存知の某パン工場は今や日本を代表する大企業ですが、作っているのは売値が100円のパンです」
「単価が安いのはパンも缶バッジも同じですから、我々のような缶バッジを扱うビジネスもやり方によってはいくらでも大きくすることができるはずだと思っています。製造業としてはパン工場の方が圧倒的に先輩ですから、学べるところは徹底的に缶バッジ工場に応用すべきです」
そう話す是本さんの案内で工場見学をしたところ、工場内はベルトコンベア式のラインが整備されており、製造、梱包、そして配送までを一気通貫で行う「パン工場式」のラインが同社の売りの一つだとお話くださいました。
興味深いのは大量の缶バッジを生産しているにも関わらず、設備の数がそれほど多くないということ。
是本さんによれば、製造業で売り上げを伸ばす場合、工場内の機械を増やして昼間の生産量を増やすことが一般的であるものの、ナラトデザイン社では機械を増やすのではなく、人を増やして、朝・昼・夜と24時間体制で常に工場で生産が行えるよう三交代制を導入しているそうです。これもパン工場の生産現場からヒントを得たものでした。
当然、人は増やせば増やすだけ人件費はかかるものの、三交代制にすることによって納期を早めることができ、夕方に受注して、夜に製造し、翌日には発送も可能だと言います。
プロ野球の年俸公開制度を缶バッジ工場に応用
缶バッジ工場などのハード面にパン工場の運営手法を取り入れたナラトデザイン社ですが、社内制度などのソフト面にはプロ野球の年俸公開制度を導入していると言います。
「弊社では全員がお互いの給料を知っているんです。なぜそんなことをするのかと言えば、それはプロ野球と同じです。例えば、年俸4億円もらっている選手が三振ばかりしていれば、下から突き上げがきますよね。それがいくら社長でも専務でも、もらっている給料に釣り合った仕事をしていないと、下の人間がついてこないんですよ」
「弊社では給料のみならず、工場スタッフが製造した缶バッジ数もランキング形式で常に掲示していて、実力がある者がしっかりと評価される透明性のある組織づくりを行っているのです」
こうした年俸公開制度を導入したことによって、社内の士気が高まり、いい意味で「手抜きができない」環境になったそうです。今回のインタビューに同席した同社の工場長も「私が代わりに工場長をやります」と下からの突き上げを経験したとお話しくださいました。
さらに年俸公開制度を導入したことによってイノベーションが起こるようになったと是本さんは話し、それがまさに先述した三交代制のような異業種からヒントを得た業務改善なのだそうです。
また、この制度は導入を決めた是本さん自身も経営者としての自分の役割を改めて深く認識するキッカケになったとして次のように話します。
「働いている人は頑張った分だけ給料がほしいものです。では、経営者の仕事は何かと言えば、社員にたくさん給料を払って、お客様にも一番安い値段で商品を提供し、その上で利益を生み出す。ある意味、矛盾する三つの条件を満たすことができる方法を考えるのが経営者の仕事です」
「そう考えたら、そもそも製造拠点って東京に必要だっけ?となるはずです。福岡工場を設立したときには徹底的にリサーチをしました。鹿児島は土地代は安いけど航空便が不便、新潟は交通のべんが悪い、福島は人が集まりにくい・・・」
「そう考えたときに、福岡が最適解だったんです。そうやって福岡にベースを構えてから現在にいたるまで常に考えを巡らせています」
こうして様々な取り組みを行うナラトデザイン社ですが、同社のミッションは缶バッジを販売してお客様からいただいた利益を、積極的に工場や人材に投資することによって、缶バッジ業界を盛り上げ、市場全体を大きくすることだと言います。
「利益→投資→市場拡大→さらなる利益」といったサイクルを繰り返すことによって、自社だけではなく缶バッジ業界全体を大きくしようとする考え方は、缶バッジのプラットフォームである我々ベックと価値観を共にしています。
取材の最後に是本さんはこんなふうにお話しくださいました。
「日本の製造業の世界では、中国から入ってくる商品に対して『中国は安いから』と、競争から逃げようとする空気感があると思います。でも、考えてみれば中国の人件費は右肩上がりですし、関税を抜けてこの価格で日本で勝負しているんです」
「これは中国の企業努力の賜物ですよ。そこにきちんと目を向けないと日本の製造業はこれからも絶対に勝てないでしょう。結局、『中国は安いから』と口にするのは経営者の言い訳でしかないのです。やり方次第でいくらでも勝負できるはずです」
自社のみならず、缶バッジ業界全体を俯瞰しながら缶バッジ製造を行うナラトデザイン社。そんな同社とともに缶バッジ業界繁栄の一端を担えていることに強い喜びを感じます。