近年、玩具店やホビーショップで大人の姿を見かけることが増えてきました。かつて子ども向けとされていた商品を、高い購買力を持つ大人が楽しむ、この現象を表す言葉が「キダルト」です。ここの層をターゲットにした商品開発も活発に進められており、企業の間では新たな市場として注目が高まっています。本記事では、キダルトの意味から注目される背景、消費の特徴、注目の商品ジャンルや事例を詳しく解説します。


キダルトとは

キダルト(Kidult)は「Kid(子ども)」と「Adult(大人)」を組み合わせた造語で、2000年代初頭に欧米のマーケティング業界で生まれました。経済的・社会的に自立した大人でありながら、子ども時代の趣味や遊びに高い関心を持ち、積極的に消費する層を指します。単なる「子どもっぽい大人」ではなく、購買力を持ち質の高い商品や体験に投資する成熟した消費者として定義されます。

キダルト層による玩具やホビー、キャラクターグッズなどの消費行動を「キダルト消費」といいます。

日本では2010年代半ばから「キダルト」という言葉が広まり始めました。キダルトによる消費は、玩具・ホビー分野を中心に、エンターテインメント、ファッション、飲食など多様な分野に影響を与えています。


キダルトが玩具市場で注目される背景

キダルトの存在が玩具市場で注目されるようになったのには、次のような背景があります。

少子化による玩具市場の構造転換

少子化が進む日本で、玩具市場は逆に成長を続けています。一般社団法人日本玩具協会によると、2024年度の国内玩具市場規模は過去最高の1兆円に達し、2019年度以降5年連続で増加しました。

参考:玩具市場規模データ|一般社団法人 日本玩具協会

この成長を支えているのが、玩具を楽しむキダルトの存在です。

明治安田総合研究所の調査(2025年9月)では、2024年の単身世帯の玩具年間支出額が14,498円と、子どものいる世帯(12,367円)を上回りました。特に35〜59歳の中年層でも支出の伸びが顕著で、玩具消費は若年層から中高年層へと広がっています。

こうした動きを受けて、玩具・ホビー企業はターゲットを子どもから購買力のある大人層へとシフトしています。高品質・高価格帯の商品展開やコレクション性を重視した企画が相次ぎ、少子化という構造的課題を逆手に取る形で市場構造が変化しています。

出典:キダルトが存在感を放つ玩具市場 ~見せる消費×コスパ×アフターコロナのコミュニティ~ |明治安田総合研究所

なお、玩具市場の成長は、外国人観光客によるインバウンド需要の後押しもあります。インバウンド需要については、「インバウンド需要とは? 注目される理由や取り込むポイントを解説」で詳しく解説しています。

ライフスタイルの多様化

現代の日本では、単身世帯や子どものいない夫婦が増加しています。これにより、自分の趣味や好きなものに時間とお金を使える大人が増えました。 「大人らしさ」の定義も変化し、かつては「子どもっぽい」とされた趣味も、個性や価値観の表現として肯定的に受け入れられるようになりました。SNSの普及により、同じ趣味を持つ人とつながりやすくなったことも、キダルト層の拡大を後押ししています。

こうした傾向は、推し活の広がりにもつながっています。

推し活については、「推し活の市場規模は?最新動向から基礎知識、グッズビジネスに役立つ情報も」でも詳しく解説しています。


キダルト消費の3つの特徴

キダルトの消費行動の特徴について解説します。

高い購買力

特に注目すべきは、経済的に自立した大人としての高い購買力です。高額であっても価値を感じればためらいなく購入し、シリーズ全体を揃えたり、限定版を収集したりする積極的な購買行動が見られます。さらに、塗装の精度や可動部分の滑らかさなど、細部の品質にも強いこだわりを示します。子ども時代に手が届かなかった憧れの商品を購入したいという感情も後押ししています。

懐かしさが購買を後押し 

子ども時代の懐かしさが購買に至ることは珍しくありません。例えば、かつて親しんだキャラクターや玩具が大人向けに高品質化されて再登場することで、強い購買意欲が生まれます。懐かしさは、多忙な日常生活のなかでも、心を和ませ、当時の純粋な楽しさを思い出させるきっかけにもなるでしょう。 

自己表現の手段

キダルトにとって、玩具は単なる娯楽ではなく、自分の個性や価値観を表す手段ととらえられています。InstagramやX(旧Twitter)では「#キダルト」「#大人買い」などのハッシュタグ投稿を通じて、自分らしさを発信する動きが広がっています。こうした活動をきっかけに、同じ趣味を持つ人との共感やつながりが生まれるのも特徴です。

さらに、オンラインだけでなく、ファンイベントや公式コミュニティなど現実の場でも交流が活発化しており、趣味を通じた自己実現の機会が広がっています。


キダルト層が支える主要な玩具ジャンル

キダルト消費は玩具市場全体に広がっていますが、近年特に注目度の高いジャンルを紹介します。

カードゲーム・トレーディングカード

2024年度玩具市場全体の売上規模が最も大きいジャンルです。ポケモンカードゲーム、ONE PIECEカードゲーム、遊戯王OCGなどが人気です。コレクション性や戦略性の高さに魅了され、キダルト層が大会参加も多くみられます。

プラモデル・フィギュア

ガンプラ(ガンダムプラモデル)のほか、アニメ・漫画キャラクターのフィギュアも好調です。組み立てる過程や完成品をSNSで発信する楽しみ方が広がり、細部までこだわった高品質な商品がキダルト層に支持されています。

ハイテク系トレンドトイ

玩具市場で特に高い成長率を記録しているジャンルです。たまごっちユニ、ぷにるんずシリーズ、ラジコンなどが人気です。子ども時代に親しんだ玩具が最新技術で進化した姿に、キダルト層はノスタルジーと新しさの両方を感じ、再び関心を寄せています。

ぬいぐるみ・人形

シルバニアファミリーやリカちゃんなどのロングセラーブランドが人気です。SNSでハッシュタグをつけ写真投稿を楽しむ文化が広がっています。キャラクターぬいぐるみや精巧な人形をインテリアとして飾ったり、着せ替えを楽しんだりと、大人ならではの楽しみ方が定着しています。

カプセルトイ

カプセルトイ(ガチャガチャ)専門店が商業施設や百貨店に続々出店し、市場が拡大しています。コレクション性とランダム性がキダルト層に人気です。取り扱う商品は、キャラクターグッズ、ミニフィギュアだけでなく、実用的な小物やアクセサリーなど多岐にわたっています。最近では、手軽な価格ながら、細部までこだわった商品が増えており、キダルト層の収集欲をかき立てています。

成長を続けるカプセルトイ市場については、「カプセルトイの市場規模は?成長の背景・ビジネスモデル・人気商品を解説」で詳しく解説しています。


【事例】キダルト層に人気のある商品・アイテム

ポケモン「ポケモンカードゲーム」

親子で遊んだり大人同士で対戦したりと、幅広い年齢層に支持されています。コレクション性の高いレアカードは投資対象としても注目され、一部のカードは高値で取引されることもあります。子どもの頃にポケモンに親しんだ世代が大人になった今、懐かしさと戦略性の高いゲーム性の両方がキダルト層を惹きつけています。公式大会やコミュニティイベントも活発に開催されています。

参考:ポケモンカードゲーム公式ホームページ「トレーナーズウェブサイト」

レゴ「大人向けレゴセット」

名作映画やポップカルチャー、乗り物、絵画、建築物まで幅広いテーマで、ピース数が1000を超える組みごたえのあるセットを展開しています。完成品はインテリアとしても映えるおしゃれなデザインが特徴です。組み立てる過程での没頭感と、ディスプレイする喜びの両方を味わえると、キダルトに人気です。

参考:大人向けレゴ®セット | Adults Welcome |レゴ®ショップ公式オンラインストアJP

バンダイ「たまごっちユニ」

海外セレブの着用をきっかけに、懐かしいレトロアイテムとして若い世代を中心に注目を集めました。最新機種「たまごっちユニ」はWi-Fi機能を搭載し、世界中のユーザーと交流できるメタバース「Tamaverse(たまバース)」に対応しています。初代から続く「ペットを育てる」というコンセプトを守りつつ、現代のテクノロジーとコミュニティ機能を融合させることで、子ども時代の思い出を持つキダルト層の心をつかんでいます。

参考:Tamagotchi Uni(たまごっち ユニ) | たまごっち公式サイト

タカラトミー「ベイブレード」

ベイブレードは、1999年に誕生し、25年以上愛され続けている現代版ベーゴマです。2023年には第4世代「BEYBLADE X」が発売されました。2024年には初めて大人も参加できる大会が開催され、注目を集めました。子ども時代にベイブレードで遊んだ世代が、大人になって再び熱中しており、「おもちゃというよりスポーツ」として楽しまれています。パーツのカスタマイズ性や対戦の戦略性といった奥深さが、キダルト層を強く惹きつけています。

参考:BEYBLADE X タカラトミー商品ページ

エポック「シルバニアファミリー」

森に囲まれたシルバニア村に住む動物たちをテーマに、41家族の人形とお家や家具をシリーズ展開し、世界70ヶ国以上で愛されています。2020年の35周年を機に公式アンバサダー制度を導入し、キダルト層を中心にSNSでファンを巻き込むコミュニティ施策を本格化させました。手作りの服や雑貨、アート作品、ジオラマ、コマ撮りアニメなどの本格的な創作物が「#シル活」として注目を集めています。

参考:シルバニアファミリー公式サイト

カプセルトイ(ガチャガチャ)

カプセルトイ(ガチャガチャ)は、キダルト層の定番エンターテインメントとして定着しています。バンダイナムコグループが展開する「ガシャポンのデパート」をはじめ、都市部を中心に専門店の出店が相次ぎ、市場は急拡大しています。

参考:ガシャポンのデパート | バンダイナムコ アミューズメントユニット公式サイト

価格帯も従来の100〜300円から、現在では500円を超える商品まで広がりを見せています。精巧なフィギュアやアクセサリー、日用品、食品サンプルなど、クオリティの高さが大人の購買意欲を刺激しています。

さらに、開封するまで中身がわからない「ブラインドパッケージ商品」も高い人気を誇ります。缶バッジやアクリルキーホルダーなど、豊富なアイテムが揃い、目当てのデザインを求めて繰り返し購入する人も少なくありません。SNS投稿やトレード文化を通じて自己表現や交流の手段としても楽しまれています。

カプセルトイの市場規模やビジネスに関する情報は、「カプセルトイの市場規模は?成長の背景・ビジネスモデル・人気商品を解説」「ガチャガチャを副業にするメリットや手順、成功のポイントを解説」で詳しく解説しています。


emoji_objects 拡大を続けるキダルト消費の動向に今後も注目

キダルトは今や、玩具市場を支えるうえで無視できない存在となっています。玩具メーカーもこの層を意識し、ニーズに応じた商品開発やイベント企画に注力しています。消費対象はカードゲームやプラモデル、フィギュア、カプセルトイといった多様なジャンルへ広がっており、今後もこの市場の伸びが期待できるでしょう。

カプセルトイ分野では、デザイン性と収集性を兼ね備えた缶バッジがキダルト層に広く受け入れられています。

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